分離不安症
2024年07月15日

犬の分離不安症ってどんな病気?原因や症状、治療法について解説

飼い主さまが外出しているとき、わんちゃんがものを壊したり、粗相をしたりするなど普段見せないような行動を起こすことがあります。このような問題行動が見られる場合、「分離不安症」という病気にかかっているかもしれません。

今回は、犬の分離不安症の原因や症状、治療法について解説します。すべての犬種で発症する可能性がありますので、これからわんちゃんを飼おうとしている方もぜひ参考にしてください。

 

 

犬の分離不安症とは

分離不安症とは、犬が愛着を持っている対象(飼い主さまやご家族など)と離れたときに起こる不安障害のひとつです。分離不安障害とも呼ばれる病気で、特定の人がそばにいないことに対して強い不安を感じると、破壊行動や不適切な排泄などの問題行動を起こします。

人間と同様に、犬も小さな頃は面倒を見てくれる人がいないと生きていけません。そのため、分離不安は生存本能として生まれつき持っており、一般的には大人になるにつれてなくなっていきます。

しかし、小さな頃から飼い主さまやご家族とずっと一緒にいるわんちゃんは、一人になる時間がありません。その結果、大人になっても分離不安がなくならないことがあり、破壊行動などの問題行動を起こしてしまうことがあります。

犬の分離不安症の原因

わんちゃんの分離不安症は、以下のような原因で発症すると考えられています。

<犬の分離不安症の原因>

  • 飼い主さまとのコミュニケーション不足
  • 飼い主さまとの共依存
  • 生活環境の変化(引っ越しなど)
  • ライフスタイルの変化(留守時間の延長など)
  • 留守番のときに怖い思いをした経験(雷鳴など)
  • 過去に虐待や放棄されたトラウマ
  • 加齢による感覚器官の衰えや病気に伴う不安
  • 脳や神経の障害

分離不安の根っこにあるのは「恐怖心」ですが、その誘因は実にさまざまです。飼い主さまやご家族と離れることへの恐怖のほか、生活環境の変化や過去の辛い記憶による恐怖なども原因になると考えられています。

また、わんちゃんに異常な行動が見られる場合、脳や神経などに障害があるかもしれません。そのため、自己判断で分離不安症と決めつけず、一度動物病院を受診することをおすすめします。

分離不安症の犬に見られる主な症状

分離不安症を発症しているわんちゃんは、以下のような行動を起こすことが多いです。

状況 主な症状
飼い主がそばにいないとき ・家具やものを壊す
・長時間鳴き続ける
・過剰なグルーミングをする
・排泄のミスをする
飼い主と一緒にいるとき ・飼い主の帰宅時に興奮状態になる
・飼い主が出かける準備をすると落ち着きがなくなる
・飼い主がトイレやお風呂に行くときも離れようとしない

分離不安症では、飼い主さまと離れている間にのみ問題行動が見られます。このような問題行動が見られる場合には、早めに対処することが大切です。

犬の分離不安症の治療法

結論からいうと、犬の分離不安症は「留守番に慣れさせる」ことで症状を改善できます。問題はどのようにして留守番に慣れさせていくかです。一般的な治療法として、以下の2つが挙げられます。

<犬の分離不安症の治療法>

  • 行動療法
  • 薬物療法

ここからは、それぞれの治療法について詳しく解説していきます。

行動療法

分離不安症に対して行う行動療法は、飼い主さまへの依存心やわんちゃんが抱える不安やストレスを軽減し、精神的に自立させることを目的とします。さまざまな方法がありますが、まずはわんちゃんが一人でいる時間に慣れさせていき、徐々にその時間を長くしていくのが基本的な流れです。具体的には、以下のような治療(トレーニング)を行います。

状況 治療(トレーニング)の内容
飼い主と犬が一緒にいるとき ・遊びや食事などの要求行動に応じない
・鍵や鞄を持つなど外出するふりをする
飼い主が外出するとき ・外出する30分前から犬に注意を向けないようにする
・犬が熱中できるものを残しておく(おもちゃや噛むものなど)
・短時間の外出から徐々に慣らしていく
飼い主が帰宅したとき ・犬が落ち着くまで相手をしない
・外出中に犬が破壊行動や不適切な排泄をしても叱らない

上記のトレーニングの一つひとつに意味があり、コツコツと繰り返すことでわんちゃんの自立を促せます。例えば、在宅時にあえて外出するふりをするのは、飼い主さまが出かけるときの状況に慣れてもらうためです。

また、外出時におもちゃやおやつなどを残しておくことで、わんちゃんが留守番中に感じる寂しさを紛らわせることができます。このようなトレーニングを繰り返し、一人でいる時間に少しずつ慣れてもらえれば、分離不安症を治すことが可能です。

なお、不安障害はとてもデリケートな問題であり、治療するには専門的な知識やそれぞれのわんちゃんに合わせた対策が必要になります。まずは獣医師やドッグトレーナーなどの専門家に相談し、指導を受けながら着実に治療を進めていきましょう。

薬物療法

分離不安症に対して行う薬物療法は、前述した行動療法をより早く効果的にすることを目的とします。いろいろな系統のお薬がありますが、一般的には「セロトニン」を増やすためのお薬(分離不安治療補助剤)を使用することが多いです。

分離不安のわんちゃんは、脳内の神経伝達物質のひとつであるセロトニンが減少し、その働きが弱くなっているために症状が現れていると考えられています。セロトニンは精神の安定に大きく影響するものであり、お薬を使ってセロトニンを増加することで、わんちゃんの不安の軽減が期待できます。また、サプリメントも治療のサポートに役立つとされているため、獣医師と相談して活用してみましょう。

なお、分離不安症の治療は「行動療法」が基本です。薬物療法はあくまでも行動療法の補助として併用しますので、獣医師とよく相談したうえでご検討ください。

犬の分離不安症の治療において大切なこと

分離不安の症状は、わんちゃんが一人になっても不安やストレスを感じないようにすれば治ります。しかし、いきなり多くのトレーニングを行えば、かえって不安やストレスを感じさせてしまうので注意が必要です。

どのようなトレーニングを行うにしても、わんちゃんの様子をうかがいつつ、少しずつ慣れさせていくことを心がけましょう。加えて、わんちゃんが一人でも快適に過ごせる環境を整え、普段から遊びや散歩の時間をしっかり確保することも大切です。

また、分離不安症は治療可能ですが、ほかの病気が原因で問題行動を起こしている可能性もあります。治療を行っても症状が改善しないまたは悪化していく場合には、早めに獣医師に相談しましょう。

まとめ

犬の分離不安症は、飼い主さまやご家族などから離れることに対して、過剰な恐怖や不安を抱いてしまう病気です。普段の生活の中でも愛犬だけで過ごす時間をつくり、また過度に構いすぎないようにすることが分離不安症の予防につながります。

すべての犬種で発症する可能性がありますので、日頃からわんちゃんの様子をチェックしておくことも大切です。もし愛犬の分離不安症が疑われる場合は、早めに動物病院を受診することをおすすめします。

「富士見台どうぶつ病院」では、ご家庭で飼われている犬や猫、フェレットなどの一般診療や健康診断を行っています。当院には動物看護師やドッグトレーナーなどの資格を保有した経験豊富な獣医師が在籍しておりますので、ペットに関するお困りごとがありましたら、お気軽にご相談くださいませ。

診療のご予約