慢性腎臓病
2024年08月05日

猫の慢性腎臓病(腎不全)ってどんな病気?原因や症状、一般的な治療法を解説

猫ちゃんによく見られる病気のひとつに「慢性腎臓病(腎不全)」があります。すべての猫で注意が必要な病気であり、命に関わる重大な病気でもあるため、この機会に慢性腎臓病に対する理解を深めておきましょう。

今回は、猫の慢性腎臓病の原因や症状、一般的な治療法についてわかりやすく解説します。今日から始められるおすすめの予防法もあわせて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

猫の慢性腎臓病(腎不全)とは

慢性腎臓病とは、長期間にわたって腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。高齢の猫によく見られ、死因の第1位との報告があるほど死亡率が高い病気として広く知られています。

そもそも腎臓はどのような役割を持つ臓器なのでしょうか。人間と同じように、猫にとっても腎臓は、以下のような働きを担っている重要な臓器です。

<猫における腎臓の役割>

  • 血液から尿をつくり、体内にある老廃物や毒素を尿として排泄する
  • 血圧を調節する
  • 血液中のイオンバランスを保つ(ナトリウムやカリウムなど)
  • ホルモンを分泌し、血液(赤血球)をつくる

何らかの原因で腎臓がダメージを受け、十分に機能しなくなる状態を「腎不全」といいます。この状態が長く続くと「慢性腎臓病」と診断されますが、初期はあまり症状が見られないため、早期発見が難しいのが実情です。

また、数時間から数日で腎臓の機能が急激に低下する病気を「急性腎臓病」といいます。急性腎臓病は進行スピードがとても速く、治療が遅れて命を落としてしまう猫ちゃんも少なくありません。

猫の慢性腎臓病の原因

猫の慢性腎臓病は、以下のようなさまざま原因によって起こります。

<猫の慢性腎臓病の原因>

  • 細菌やウイルスの感染による腎炎
  • 外傷
  • 薬物などによる中毒
  • 心筋症やショックなどによる腎血流量の低下
  • 免疫疾患などによる腎炎
  • 結晶や結石などによる尿路の閉塞

上記のほか、加齢に伴う腎臓へのダメージや多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)などの遺伝性疾患も、慢性腎臓病を引き起こす原因となります。

猫の慢性腎臓病の症状

猫が慢性腎臓病にかかると、はじめに「多飲多尿」や「色が薄い尿が出る」などの症状が現れます。尿そのものに関連した変化が見られる場合は、慢性腎臓病やほかの病気の可能性が考えられるため、早めに獣医師に相談しましょう。

また、腎機能の低下が進むと、食欲不振や体重減少・嘔吐・毛艶がなくなるなど全身的な症状を示すようになります。このような症状が現れ始めた頃には、すでに腎臓の機能の大半が失われていると考えていいでしょう。

猫の慢性腎臓病のステージ分類

猫の慢性腎臓病は、病気の進行度に応じて4つのステージに分類されます。

慢性腎臓病の分類 概要
ステージ1 ・症状がほとんど見られず、血液検査でも異常が見られない
・尿検査で尿比重の低下や蛋白尿、腎臓の形状の異常が認められることがある
ステージ2 ・多飲多尿が起きるようになる
・ほかの症状が認められず、異常に気づかないこともある
・腎機能が正常の4分の1にまで低下している
ステージ3 ・有害物質を尿中に十分排泄することができなくなり、尿毒症を発症し始める
・食欲の低下や嘔吐・下痢などの症状が現れるようになる
ステージ4 ・重篤な臨床症状が見られるようになる
・尿毒症がさらに進行し、積極的な治療なしでは生命維持が困難になる

慢性腎臓病と診断された場合、病気の程度をステージ分類することによって治療の方針を決定します。このステージ分類は、血液検査や尿検査などを参考に行いますが、定期的に検査をして病状を正確に把握することが大切です。

猫の慢性腎臓病の治療法

腎臓の組織は一度壊されてしまうと、元に戻すことはできません。そのため、慢性腎臓病の治療では、残っている腎機能を長持ちさせて「病気の進化を遅らせる」ことが中心となります。一般的な治療法は以下のとおりです。

治療法 概要
食事療法 たんぱく質・リン・ナトリウムを制限し、腎臓の負担を軽くする(同様の効果が期待できるサプリメントを使うこともある)
点滴 積極的な水分摂取により、脱水の修正や老廃物の排出を促す
投薬 お薬を投与し、腎臓の血圧を下げる(猫の状態に応じて抗生剤・胃薬・吐き止めなどを与えることもある)

設備のある病院では、腹膜透析や血液透析を行い、老廃物の排出を促すこともあります。なるべく早い段階で治療を行えば、完治はしなくても長生きすることは十分に可能です。

また、急性腎臓病に関しては、初期の段階で適切な治療を行うことで腎機能が回復する可能性があります。そのため、定期的に健康診断を受けるなどして、早期発見・早期治療につなげることが重要です。

慢性腎臓病に用いられている「再生医療」について

動物病院のなかには、ステージ2・3に分類される慢性腎臓病に対して、「再生医療(幹細胞治療)」を実施しているところもあります。幹細胞治療とは、細胞が持つ再生力を活用し、傷ついた組織や失われた機能を元に戻すことを目的とした医療技術です。

従来の治療薬とは異なる作用があり、具体的には腎臓の炎症や線維化を抑制し、腎機能の改善や臨床症状の改善と安定化を示す働きがあることが報告されています。再生医療は、現在も研究が進められている段階ではありますが、腎機能の維持・改善が期待できる最先端の治療法です。

猫の慢性腎臓病の予防法

猫が慢性腎臓病にならないようにするためには、若い頃から腎臓に負担をかけないケアを行うことが大切です。例えば、毎日新鮮な水を与えれば、腎臓への負担を軽くできます。

猫はあまり水を飲まない生き物であり、水の飲み方や温度にはそれぞれ好みがあるため、積極的に水を飲んでもらえるような工夫が必要です。まずは愛猫の様子をよく観察し、お気に入りの容器に水を入れたり、行動パターンに合わせて複数の水飲み場を用意したりしてみましょう。

また、普段から栄養バランスのとれた食事を与えることも、腎臓の負担軽減につながります。特にたんぱく質や塩分などの摂りすぎは、腎臓への大きな負担になりますので、この機会に食事内容を見直してみるといいでしょう。

食事以外の予防法としては、デンタルケアがおすすめです。歯肉口内炎がある猫ちゃんは、慢性腎臓病になりやすい傾向があるため、日頃からデンタルケアを行うことを推奨します。

まとめ

慢性腎臓病は、猫ちゃんによく見られる病気のひとつです。病気の原因となる細菌・ウイルスや外傷などを完全に避けることは難しいですが、できる限り腎臓に負担をかけないケアをしてあげましょう。

また、慢性腎臓病は初期のうちは自覚症状がほとんどありません。そのため、飼い主さまも気づかないうちに病気が進行してしまうケースが非常に多いです。定期的に健康診断を受けて、病気の予防や早期発見・早期治療に努めましょう。

「富士見台どうぶつ病院」では、ご家庭で飼われているペット動物たちの一般診療や健康診断を行っています。猫ちゃんが元気な状態で長く生きられるようにお手伝いさせていただきますので、気になることや心配なことがありましたら、当院までお気軽にお問い合わせください。

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