再生医療
2024年07月23日

犬の再生医療(細胞治療)とは?治療の内容や流れ、期待できる効果について解説

現代の医療技術は日々進歩しており、新たな治療法の開発が活発化しています。注目を集めている治療法のひとつに「再生医療(細胞治療)」がありますが、具体的にどのような治療法なのか知らないという方も多いのではないでしょうか。

今回は、犬の再生医療の内容や流れ、期待できる効果などについて解説します。愛犬が体調を崩したとき、再生医療が選択肢となる可能性もありますので、この機会に知識を深めておきましょう。

 

 

犬の再生医療(細胞治療)とは

再生医療とは、病気のわんちゃん自身または健康な子から採取した細胞を用いる治療法です。これまで治せなかった病気などに対する新しい治療法として注目され、世界中で研究が行われています。

ヒト医療においては、厚生労働省の先進医療に認定されており、すでに臨床現場で利用が始まっている治療法です。犬や猫を対象とした獣医療の分野でも、自由診療という形で再生医療が行われています。

再生医療に用いられる「幹細胞」について

動物の体には、さまざまな器官や臓器などに変化する細胞が存在します。このような自己修復を行う細胞のひとつが「幹細胞(かんさいぼう)」です。

幹細胞は骨髄・胎盤・脂肪などに多く含まれており、通常の再生療法(幹細胞療法)では2種類の幹細胞を利用します。

<再生医療に用いられる幹細胞の種類>

  • 骨髄幹細胞(MSC)…骨髄液の中に存在する幹細胞
  • 脂肪幹細胞(ADSC)…皮下脂肪の中に含まれる幹細胞

これらの細胞を体外で培養した後、わんちゃんの体に戻してあげることで、失われた組織の再生や機能の修復が期待できます。

再生医療の流れ

再生医療は、以下のような流れで行われます。

<再生医療の流れ>

  • 病気のわんちゃん自身(または健康な子)から細胞を採取する
  • 体外で細胞を増やす
  • 目的に合った細胞に変化(分化)させる
  • 培養した細胞をわんちゃんに移植する

再生医療では、本人から採取した細胞を体の外で増やし、生理活性物質などを加えることで目的に合った細胞に変化させます。そして分化した細胞(特定の働きを持った細胞)を本人に再移植するのが基本です。

獣医療の分野で行われている再生医療

犬や猫を対象とした獣医療の分野では、以下のような再生医療が行われています。

<獣医療の分野で行われている再生医療>

  • 幹細胞療法(骨髄幹細胞療法、脂肪幹細胞療法)
  • がん免疫療法(免疫細胞治療)

以下では、それぞれの再生医療について詳しく解説します。

幹細胞療法(骨髄幹細胞療法、脂肪幹細胞療法)

幹細胞療法とは、先ほど解説した幹細胞を用いる治療法です。骨髄や皮下脂肪由来の幹細胞は、骨や軟骨のほか、筋肉・心筋細胞・血管を形作る細胞に分化することが知られています。

上記の分化する能力を利用し、自分自身の細胞で失われた器官や臓器の再生、機能の修復を目指すのが幹細胞療法です。この再生医療には、骨髄幹細胞療法(MSC療法)と脂肪幹細胞療法(ADSC療法)の2種類があり、それぞれ培養する細胞が異なります。

がん免疫療法(免疫細胞治療)

がん免疫療法とは、生まれつき備わっている免疫の力を利用したり強めたりすることで、がんの発症や進行を抑える治療法です。動物には病気や怪我に対して自分で治そうとする「免疫力(リンパ球)」という自然治癒力が備わっています。

免疫本来の力を利用し、体内にできたがん細胞を攻撃するのががん免疫療法です。これまでがんの治療は、外科手術・化学療法・放射線療法の3大療法が主流でした。これらに次ぐ第4の療法として、がん免疫療法は世界中で研究され、今では犬のがん治療にも採用されています。

がん免疫療法には、以下のような4つの特長がありますので、もし愛犬にがんが見つかった場合には選択肢のひとつとして検討してみるといいでしょう。

<がん免疫療法の特長>

  • 副作用がほとんどない(拒絶反応など)
  • 延命効果が見られる
  • 自覚症状の改善が図れる(がんの進行に伴う痛みや貧血など)
  • ほかの治療法との相乗効果が期待できる

犬の再生医療の適応疾患

犬における再生医療の適応疾患として、以下のような病気が挙げられます。

<犬の再生医療の適応疾患>

  • 脳疾患(脳炎、水頭症など)
  • 神経疾患(椎間板ヘルニアなど)
  • 自己免疫疾患(多発性関節炎など)
  • 治りにくい骨折(骨折癒合不全など)
  • 内科系疾患(腎不全や肝硬変など)
  • 皮膚疾患(アトピー性皮膚炎)

椎間板ヘルニアには、「ステムキュア」という再生医療等製品も販売されています。なお、再生医療は先端的な治療であり、医療機関ごとに適応としている疾患は異なります。十分なエビデンスが確立されておらず、試験的要素を伴うこともありますので、獣医師とよく相談したうえで治療方法を選択することが大切です。

犬の再生医療に関するよくある質問

最後に、犬の再生医療に関するよくある質問に対して回答していきます。以下の内容も参考に、再生治療に対する理解を深めておきましょう。

幹細胞はどうやって採取するのですか?

わんちゃんから少量の骨髄液やパチンコ玉程度の脂肪組織を採取し、そこから幹細胞を採取します。骨髄液をとるときは全身麻酔を行い、脂肪組織をとるときは局部麻酔で可能な場合もあります。

幹細胞はどのような病気に効果がありますか?

幹細胞は、脊髄損傷や骨折癒合不全などさまざまな病気で治療の研究が進められています。例えば、脊髄損傷では幹細胞が血管へと分化し、損傷部位の血流を回復することで神経細胞の伸長の補助や脊髄全体の再結成を促すと考えられています。

適応疾患と期待できる効果については、医療機関までお問い合わせください。

がん免疫療法でがんは治りますか?

がん免疫療法では、進行がんや末期がんを完全に治すのは難しいといわれています。一方で、がんの進行を止めたり、再発を防止したりする効果は大いに期待できます。

また、がんの進行に伴う痛みや貧血などの苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を改善するにも効果的な治療法です。副作用は軽い発熱がたまに見られる程度であり、重篤な副作用の報告はありません。

ほかの治療との併用は可能ですか?

再生医療は、ほかの治療との併用が可能です。がん免疫療法に関しては、抗がん剤治療や放射線治療などとの併用により、相乗効果が期待できる可能性があります。

ただし、患っている病気や使用している薬剤によっては併用できない場合もありますので、詳細は医療機関にてご確認ください。

再生医療の費用はどれくらいかかりますか?

幹細胞療法は動物の状態や病気の種類によって、がん免疫療法は投与回数や免疫細胞療法の種類によって異なります。詳細は医療機関までお問い合わせください。

まとめ

再生医療は、幹細胞や免疫細胞を用いる新しい治療法であり、非常に多くの可能性を秘めた治療法でもあります。薬物治療に見られるような副作用のリスクがなく、これまでの治療では治らないとされていた病気などに対して効果が期待できるのが大きな特徴です。

世界的に注目を集めている再生医療ではありますが、これは決してすべての問題を解決できるという魔法のような治療法ではありません。そのため、診療をしっかりと行ったうえで、必要に応じて再生医療を組み合わせていくことが重要だと考えます。

「富士見台どうぶつ病院」では、ご家庭で飼われているペット動物たちの一般診療や健康診断を行っています。精密検査を通じて早急な原因究明を行い、最適な治療法をご提案いたしますので、愛犬の健康についてお悩みの方は当院までご相談ください。

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