膝蓋骨脱臼
2024年07月11日

犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?原因や症状、一般的な治し方をご紹介

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)とは、いわゆる膝のお皿が外れる病気のことです。突然スキップのような歩き方をしたり、頻繁に後ろ足を気にしていたりする場合は、膝蓋骨の脱臼が原因かもしれません。

今回は、犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)について詳しく解説します。主な原因やよく見られる症状のほか、治療法や予防法も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)とは

膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨(膝にあるお皿のような骨)が正しい位置から外れる病気です。犬の関節疾患としてよく起こる病気のひとつで、通称「パテラ」とも呼ばれています。

膝の内側に外れることを「内方脱臼」、外側に外れることを「外方脱臼」といいますが、膝蓋骨脱臼で受診する多くの犬が内方脱臼を発症しています。とくにチワワやトイプードルなどの小型犬は、膝蓋骨脱臼を起こしやすいので注意が必要です。

犬の膝蓋骨脱臼の原因

わんちゃんの膝蓋骨脱臼が起こる原因には、先天的なものと後天的なものがあります。

<犬の膝蓋骨脱臼の原因>

  • 先天的な原因…生まれつきの骨格や体型、成長期の骨形成の異常など
  • 後天的な原因…転倒・落下・事故による外傷など

膝蓋骨脱臼は、骨格や体型などの先天的な原因から起こることがあります。小型犬によく見られるケースで、成長とともに脱臼が進行していく傾向にあるため、初期の頃はほとんど症状がないことも多いです。

また、転倒や事故などによって膝に強い力がかかり、突発的に発症するケースも珍しくありません。外傷に起因する膝蓋骨脱臼は痛みを伴いやすいです。

犬の膝蓋骨脱臼の症状

膝蓋骨脱臼を発症しているわんちゃんは、以下のような症状を見せることが多いです。

<犬の膝蓋骨脱臼の症状>

  • スキップのような歩き方をする
  • スムーズに歩けない(よちよちと歩くなど)
  • 1本の足を上げている(地面に着けない)
  • 後ろ足を上げたり伸ばそうとしたりする
  • 抱き上げたときに「キャン」と鳴いて痛がる
  • 膝から「パキパキ」といった音が聞こえる
  • 散歩に行くのを嫌がる
  • 段差を上ろうとしない

初期の頃は痛みがなく、これらの症状を見せないことも多いため、飼い主さまはなかなか気づけないかもしれません。もし上記のような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診することをおすすめします。

膝蓋骨脱臼のグレード

膝蓋骨脱臼は、脱臼の重症度に応じて次のようなグレード分けがされています。

グレード 状態
グレード1 ・膝蓋骨は正常な位置にある
・触診で簡単に外せるが、手を離すと元の位置に戻る
グレード2 ・膝蓋骨は正常な位置にある
・膝を曲げ伸ばしするだけで、簡単に膝蓋骨が外れる
グレード3 ・膝蓋骨が常に外れている
・手で押すと元の位置に戻る
グレード4 ・膝蓋骨が常に外れている
・手で押しても元の位置に戻らない

一口に「膝蓋骨脱臼」といっても、症状は軽症から重症までさまざまです。治療法については、上記のグレードやわんちゃんの年齢・体重・合併症の有無などを総合的に検討し、ベストな方法を選択します。

犬の膝蓋骨脱臼の治療法

膝蓋骨脱臼の治療法には、お薬などによる「内科的治療」と手術による「外科的治療」の2種類があります。ここでは、それぞれの治療法について詳しく解説します。

内科的治療

膝蓋骨脱臼の内科的治療は「保存療法」です。症状がほとんどない場合や手術ができない場合は、以下のような保存療法を行います。

内科治療 概要
薬物療法 鎮痛剤による痛み止め、サプリメントによる関節炎の予防
体重管理 体重管理による関節への負担軽減
安静 安静による関節への負担軽減
生活環境の見直し 転倒や事故などを防ぐための環境改善

内科的治療では、根本的な構造の異常に手を加えるのではなく、病気と付き合いながら生活の質を保っていくことに焦点を合わせます。この場合、膝蓋骨脱臼を治すことは難しいですが、「歩行時の痛みを取り除く」「症状の悪化を防ぐ」といった間接的なアプローチが可能です。

ただし、内科的治療は比較的軽度な脱臼を起こしているわんちゃんが対象となります。通常の歩行が難しいほど重度である場合は、上記の保存療法では対応できないことが多いです。

外科的治療

膝蓋骨脱臼の重症度がグレード2以上の場合、手術による治療が基本です。軽度な脱臼でも日常生活に支障をきたす場合には、外科的治療が推奨されます。代表的な外科的治療は以下のとおりです。

外科治療 概要
滑車形成術(かっしゃけいせいじゅつ) 滑車溝(膝蓋骨がおさまるくぼみの部分)を切除して深くする術式
脛骨粗面転移術(けいこつそめんてんいじゅつ) 脛骨粗面を本来あるべき位置に移動させ、ピンで固定する術式

膝蓋骨は「滑車溝」というくぼみにおさまっている骨ですが、わんちゃんのなかには滑車溝が浅く、膝蓋骨が脱臼しやすい子もいます。この場合に選択できるのが、「滑車形成術」と呼ばれる術式です。浅めの滑車溝を切除して深くし、膝蓋骨の脱臼を防ぐことができます。

また、膝蓋骨につながる膝蓋靭帯は、脛(すね)の骨の脛骨粗面という部位に付着しています。しかし、脛骨粗面が内側または外側にずれると、膝蓋骨に異常な力がかかってしまうのです。この場合にも手術を行い、脛骨粗面を本来あるべき位置に移動させ、膝蓋骨が脱臼しないように金属製のインプラントで固定します。

なお、膝蓋骨脱臼に対する手術は、複数の術式を組み合わせて行うのが一般的です。犬種や年齢、症状によって手術方法は異なるため、治療を受ける際は獣医師としっかり話し合いましょう。

犬の膝蓋骨脱臼の予防法

膝蓋骨脱臼を予防するため、飼い主さまに気をつけてほしいポイントは以下のとおりです。

<犬の膝蓋骨脱臼の予防法>

  • 体重が増えすぎないように注意する
  • 安全に過ごせる生活環境を整える
  • 運動による過度な負荷に気をつける

以下では、それぞれの予防法について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

体重が増えすぎないように注意する

膝蓋骨脱臼は、膝関節に大きな負荷がかかると発症しやすくなります。そのため、できるだけ膝に負担がかからないよう、肥満を防止することが大切です。食事の内容やおやつの量を見直し、適度な運動も心がけましょう。

安全に過ごせる生活環境を整える

膝蓋骨脱臼を予防するには、生活環境を見直すことも大切です。例えば、お住まいの床がフローリングで滑りやすい場合、わんちゃんが転倒して膝蓋骨脱臼を起こしてしまうリスクがあります。

とくに小さなわんちゃんは、部屋の中を駆け回ったりジャンプしたりと活動的に過ごすケースが多いでしょう。このような場合、マットやカーペットなどの滑り止めを敷いておけば、室内での転倒や事故を防ぎやすくなるのでおすすめです。

また、爪が伸びていたり、肉球周りの毛が多かったりすると歩行時に滑りやすくなります。わんちゃんの安全を確保するためには、定期的なお手入れも欠かせません。

運動による過度な負荷に気をつける

運動による過度な負荷も、膝蓋骨脱臼の原因となります。高いところから飛び降りたり、激しい回転運動を行ったりすると、膝に負担がかかってしまうので注意が必要です。

なお、膝蓋骨脱臼の原因となる行動は、しつけトレーニングによって改善できる場合があります。少しでも脱臼するリスクを抑えたいのであれば、犬のしつけに詳しい獣医師やドッグトレーナーなどに相談してみるのも一案です。

まとめ

犬の膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が正しい位置から外れる病気であり、とくに小型犬に多く見られます。初期の頃はほとんど症状がないこともありますが、膝蓋骨が脱臼すると「スキップのような歩き方をする」「抱いたときに鳴いて痛がる」といった症状を見せることが多いです。

また、膝をかばいながら歩く状態が続くと足腰全体に負担がかかり、膝周辺の骨や靭帯の病気を併発するリスクが高まります。まずはわんちゃんの体重管理をしたり、生活環境を見直したりして、膝蓋骨脱臼の発症・悪化の予防に努めましょう。そして日頃からわんちゃんの様子や歩き方をよく確認し、何かおかしいと感じたらすぐに動物病院を受診するようにしてください。

「富士見台どうぶつ病院」では、犬や猫、フェレットなどご家庭で飼われているペット動物たちの一般診療を行っています。健康診断も受け付けておりますので、愛犬の足の状態や体調に関して気になることがありましたら、当院へお気軽にご相談ください。

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